COO代行信國大輔のCOO代行実践録

支援実績100社以上、上場成功実績3社、ベンチャー・中小企業専門のCOO代行が、事業推進や組織体制構築、新規事業企画、プロジェクトマネジメント、新規採用のコツ、社員のモチベーションアップ、マネージャ育成・チームビルディングなどあらゆる経営課題の実践的な企業経営ノウハウを解説。

次世代型組織構築その7:対話の文化 対話する組織

      2017/07/28

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びりかん式経営の一番の根幹は「対話」にあります。どんなことについても話し合います。極端に言えば、どんな事柄であってもみんなが納得するまで。組織メンバーの一人一人が参加している対話の場を持つことをとても大切にしています。

対話は、一人一人が参加します。参加しない、ことも選べますが、もしそれを選んだら、そこで“決定”したことには無条件に従ってもらいます。それが嫌なら“参加する”ことです。

“対話に参加する“とはどういうことでしょうか。それはまず第一に「一人一人が本音で話す」ということです。

本音と建て前という言葉がありますが、建て前で話し合っているうちは、それは「対話」とは呼べるものではないと言ってよいかと思います。南アフリカの社会変革などに携わったアダム・カヘン(「手ごわい問題は、対話で解決する」など)は、対話の段階を4つに分けて説明しています。

Talking Nice
Talking Tough
Reflective Dialogue
Generative Dialogue

Talking Nice

Talking Niceは儀礼的会話などと訳されていて、まさに建て前の会話です。「ホントは、その仕事やる意味あるのかなと思っているけど。。。」「ホントは、こんな細かい資料意味あるの?と思っているけど。。。」そういう「ホントは」は隠されたまま、表現されずに、「この場では、こういう発言が求められているだろう」という斟酌によって会話が流れている状態です。

当然ですが、このTalking Niceの状態では、例えばそこで約束されたことなどに対して、本気で取り組むなどといったことは不可能になります。例えば営業部長が「今期の売上目標は1億円だ!」と言ったとして、部下たちは「1億円なんて絶対無理だよ。。。」と本音では思っていて、しかしTalking Niceをするので「分かりました!1億円ですね!」と建て前で発言したりします。しかし、この状態では「どうやって1億円の売上を達成しようか?」という前向きな思考や行動は生まれてこないのです。

Talking Tough

となると、Talking Niceのレベルのコミュニケーションに留まっているわけにはいきません。「1億円なんて絶対無理だよ。。。」という本音が、ちゃんと表現される必要があります。これが表現されるようになるのがTalking Toughの段階です。「1億円いくぞ!」「1億なんて絶対無理ですよ!」「ふざけるな!最初から無理だと決めつけてビジネスが上手くいくか!」こんな会話になってくると、それはTalking Toughということになってきます。

このTalking Toughの状態は、非常にストレスがかかるので、みんなTalking Niceに戻りたがります。しかし、Talking Niceに戻らずに、Reflective Dialogueに移行できるかどうか、ここが組織内で「対話」を成立させられるかどうかの鍵になります。

Reflective Dialogue

なぜ1億円もの高い売上目標を掲げる必要があるのか?なぜ、1億円という高い売上目標を掲げることに抵抗があるのか?そういったところ「本音の本音」のところを丁寧に掘り下げて、共有していくのです。

そこで大事になってくるのは、論理以上に、一人一人の「気持ち」ということになります。

例えば、営業部長からすると「他の部も1億円というノルマになっていて、自分達だけ断るなんてことはできなかった」「目標自体を否定したら、自分達の評価は大きく下がってしまう。部下たちも賞与は激減してしまうだろう」「自分の評価が下がるのも辛い」「そんな状態に部下たちをさせたくはない。厳しい目標だがなんとか達成して、給料を維持させてあげたい」といった気持ちが隠れているかもしれません。

一方で部員たちからすると「去年の8000万円も達成できなかったのに、市況は悪くなってる中でどうやって実現しろって言うんだ、非現実的過ぎる。」「ホントに1億円を売上げようと思ったら毎日徹夜して、週末も休みがないみたいな生活にならざるを得ない」「子供が生まれたばかりで、そんな生活は絶対にしたくない」といった気持ちがあるかもしれません。

多くの企業において、こういった「気持ち」といったものは、職場では話さないことになってきていたかと思います。「社会人として、公私を分けて」という考え方は、社会全般に浸透しているかもしれません。

しかし、こういった「気持ち」をちゃんと受発信することがReflective Dialogueであり、Reflective Dialogueのレベルでの対話ができるからこそ、一人一人が本当に責任感を持って仕事にあたることができるようになるのです。

「気持ち」を大切にする

Google社が「生産性を高める要因を調査する」として始めた社内プロジェクト“プロジェクト・アリストテレス”の調査結果が報じられましたが、この調査結果の結論の一つは「心理的安全性が高いチームは、生産性が高かった」ということでした。

例えば「実は、親が介護が必要な状態で、プロジェクト終盤の追い込みの時期に、みんなの足をひっぱってしまうのではないかと不安を感じている」といったことを、チームメンバーに“安心して”共有出来る、そういったチームほど生産性が高かったというのです。

人間が働いているわけであって、人間にとって「気持ち」や「こころ」といったものは本当に大切なものだと思います。社内で「対話」の文化を育むということは、人の気持ちを大事にするということであり、それはつまり、人間を大事にする、ということなのだろうと思います。

気持ちを含めて対話することを「面倒くさい事」として、「感情などは押し殺して仕事をすべき」などと考えていると、人間の生産性こそが競争力の源泉となる現代のビジネス社会においては、企業経営に対して致命傷を与えかねません。

ビジネスの成果が生み出されるのは

感情(想い・気持ち)→思考→行動→成果

という順番です。

例えば最初の気持ちのところで「ああ、仕事なんて嫌だ嫌だ」と思っていれば、次の思考は「どうやって早く帰ろう?」と考えることになり、その思考にそって行動し(例えば、上司がいない隙に帰宅する)、その行動に見合った成果が生み出されることになります。

最初の気持ちのところで「もっといい仕事をしてお客様を喜ばせたい!」と思っていれば、「どうしたらもっと喜んでもらえるかな?」と考えることになり、「そうだ、次はこういう資料をお持ちしてみよう」と行動し、その行動に見合った成果が生み出されることになります。成果が生み出される起点は、気持ちなのです。
この「気持ち」について、丁寧に話し合うということ。対話の文化を根付かせるということ。これがびりかん式経営の根幹にあります。

相手の本音を尊重する

本音で話す際に「相手の本音を尊重する」という聞く側の姿勢も大事になります。これもとても重要です。

相手の意見が自分の意見が違う際に「私もそう思う」と嘘をつく必要はありません。しかし「あなたはそう思うのですね」ということは、しっかりと尊重し、受け止めます。

そのうえで「あなたは間違っている」と返す前に、一人一人が内省します。「私はAがよいと思っている。しかし、Bがよいという人がいる。なぜ私はAという案にこだわっているのだろうか?」と。

また同時に「私はAがよいと思っているが、この人はBがよいと思っている。この人がBがよいと思っている理由は何なんだろうか?」と推察しようともします。

この“聞く態度”は、対話の質を高めるうえで“自己開示”以上に大切なところがあります。そして、このような態度を大切にした対話の場は「話し合っている」というよりも、「聞きあっている」という方が的確かもしれません。

どんなことでも対話する

びりかん式経営ではどんなことでも対話の対象となります。タブーはありません。「それは話ってもしょうがない」「それはアンタッチャブルだ」という制約を設けていません。

「お前失恋したくらいで、仕事さぼるなよ!」「いや、失恋したら仕事なんて手につかないですよ。あなたのほうこそ人間じゃないんじゃないですか?」ということも対話します。

「どうして自分たちが稼いだお金の2割が、そのまま無条件に社長の取り分というか役員報酬になるのか納得いきません」「会社を創業するときに親戚中に頭を下げて、お金を借りて創業した苦労が君に分かるのか?」」ということも対話します。

どんなことでも、対話するのです。

それは、立場が創業者であれ社員であれ、男性であれ女性であれ、高収入であれ低収入であれ、一人一人の人間は尊重されるべき尊厳ある存在である、と考えていることが根底にあります。

社長だけが幸せで社員が犠牲になっているというのも会社として長続きしないでしょう。一方で、社長が犠牲になって社員だけが幸せというのもおかしな話です。立場がどうあれ、一人の人間として、その人がその人なりの幸福を望んだり、実現しようとすることは尊重されるべきものと考えています。

しかし、立場や価値観などはぶつかるものです。例えば、「一人前になるまでは、一つも口ごたえせずとにかく勉強と思って頑張るべき」と思っている上司と、「修行期間であれ、自分の頭でしっかりと考えて納得いかないところは納得いかないとちゃんと自分の意見をぶつけるべき」と思っている部下とでは、ぶつかるものです。

そして、この“ぶつかり”をとても大切なものと考えているのが、びりかん式経営と言えます。それは確かに面倒くさいものですが、ちゃんとぶつかることによって、それぞれの視野が広がったり、より組織として大きな視野で成熟した判断を下せるようになる、そのチャンスとして考えているのです。

もちろん包含関係の場合もあります。視野の狭い人が、視野の広い人に完全に包まれている、というケースもあります。その場合も、視野の広い方の人は「なんで、こんな視野の狭いやつにわざわざ時間を割いて教えてあげなきゃいけないんだよ」ということになるわけでもなく、原則として「自分にも視野が狭いときがあったし、そのときに視野を広げるきっかけをくれた人もいるし、恩送りだなぁ」といった態度でいることになります。もし「あいつはわかってない!!」と腹が立ったりするようだと、それはまだ包含関係にはなっていないという証拠であるとも考えています。

と同時に、矛盾にするようでもありますが「やりたいことをやる。やりたくないことはやらない」が原則なので、教えたい人は教えるし、教えたいと思わない人は教えません。これもまた個性として尊重しています。(ただ、社内会議において“教えている”という価値に対して、給料を発生させる必要がある、といった話にはなります)

話を戻しますが、どんなことでも対話するし、意見がぶつかるところについてこそ、時間をかけて丁寧対話をします。もちろん時間がかかる面はあるのですが、でも「ちゃんと丁寧に対話をして、みんなが納得した状態」になることのメリットは無限とも言えるほどのものがあります。だからこそびりかん式経営では「対話する」ということが、根幹に据えられているのです。

 - 社員も社長も幸せな次世代組織(セムコスタイル、ホラクラシー、サーバントリーダーシップ、ネットワーク型、ノマド)