COO代行信國大輔のCOO代行実践録

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第五回「対話する組織」対話の4つの段階

      2017/05/19

これまでお伝えしてきた経営人事を、実際に浸透させていくにあたって、最も重要となるものは「対話」かと思います。では「対話」とはいったいどんなものなのか、それを今回は考えてみたいと思います。

建前から本音の会話へ

本音と建て前という言葉がありますが、建て前で話し合っているうちは、それは「対話」とは呼べるものではないと言ってよいかと思います。南アフリカの社会変革などに携わったアダム・カヘン(「手ごわい問題は、対話で解決する」など)は、対話の段階を4つに分けて説明しています。

Talking Nice (儀礼的会話)
Talking Tough (論争)
Reflective Dialogue (内省的対話)
Generative Dialogue (生成的対話)

Talking Niceは儀礼的会話などと訳されていて、まさに建て前の会話です。「ホントは、その仕事やる意味あるのかなと思っているけど。。。」「ホントは、こんな細かい資料意味あるの?と思っているけど。。。」そういう「ホントは」は隠されたまま、表現されずに、「この場では、こういう発言が求められているだろう」という斟酌によって会話が流れている状態です。

当然ですが、このTalking Niceの状態では、例えばそこで約束されたことなどに対して、本気で取り組むなどといったことは不可能になります。例えば営業部長が「今期の売上目標は1億円だ!」と言ったとして、部下たちは「1億円なんて絶対無理だよ。。。」と本音では思っていて、しかしTalking Niceをするので「分かりました!1億円ですね!」と建て前で発言したりします。しかし、この状態では「どうやって1億円の売上を達成しようか?」という前向きな思考や行動は生まれてこないのです。

となると、Talking Niceのレベルのコミュニケーションに留まっているわけにはいきません。「1億円なんて絶対無理だよ。。。」という本音が、ちゃんと表現される必要があります。これが表現されるようになるのがTalking Toughの段階です。「1億円いくぞ!」「1億なんて絶対無理ですよ!」「ふざけるな!最初から無理だと決めつけてビジネスが上手くいくか!」こんな会話になってくると、それはTalking Toughということになってきます。

逃げずに本音を掘り下げる

このTalking Toughの状態は、非常にストレスがかかるので、みんなTalking Niceに戻りたがります。しかし、Talking Niceに戻らずに、Reflective Dialogueに移行できるかどうか、ここが組織内で「対話」を成立させられるかどうかの鍵になります。

なぜ1億円もの高い売上目標を掲げる必要があるのか?なぜ、1億円という高い売上目標を掲げることに抵抗があるのか?そういったところ「本音の本音」のところを丁寧に掘り下げて、共有していくのです。

そこで大事になってくるのは、論理以上に、一人一人の「気持ち」ということになります。

例えば、営業部長からすると「他の部も1億円というノルマになっていて、自分達だけ断るなんてことはできなかった」「目標自体を否定したら、自分達の評価は大きく下がってしまう。部下たちも賞与は激減してしまうだろう」「自分の評価が下がるのも辛い」「そんな状態に部下たちをさせたくはない。厳しい目標だがなんとか達成して、給料を維持させてあげたい」といった気持ちが隠れているかもしれません。

一方で部員たちからすると「去年の8000万円も達成できなかったのに、市況は悪くなってる中でどうやって実現しろって言うんだ、非現実的過ぎる。」「ホントに1億円を売上げようと思ったら毎日徹夜して、週末も休みがないみたいな生活にならざるを得ない」「子供が生まれたばかりで、そんな生活は絶対にしたくない」といった気持ちがあるかもしれません。

「気持ち」を受発信する

多くの企業において、こういった「気持ち」といったものは、職場では話さないことになってきていたかと思います。「社会人として、公私を分けて」という考え方は、社会全般に浸透しているかもしれません。

しかし、こういった「気持ち」をちゃんと受発信することがReflective Dialogueであり、Reflective Dialogueのレベルでの対話ができるからこそ、一人一人が本当に責任感を持って仕事にあたることができるようになるのです。

Google社が「生産性を高める要因を調査する」として始めた社内プロジェクト“プロジェクト・アリストテレス”の調査結果が報じられましたが、この調査結果の結論の一つは「心理的安全性が高いチームは、生産性が高かった」ということでした。

例えば「実は、親が介護が必要な状態で、プロジェクト終盤の追い込みの時期に、みんなの足をひっぱってしまうのではないかと不安を感じている」といったことを、チームメンバーに“安心して”共有出来る、そういったチームほど生産性が高かったというのです。

人間が働いているわけであって、人間にとって「気持ち」や「こころ」といったものは本当に大切なものだと思います。社内で「対話」の文化を育むということは、人の気持ちを大事にするということであり、それはつまり、人間を大事にする、ということなのだろうと思います。

対話の文化を根付かせる

気持ちを含めて対話することを「面倒くさい事」として、「感情などは押し殺して仕事をすべき」などと考えていると、人間の生産性こそが競争力の源泉となる現代のビジネス社会においては、企業経営に対して致命傷を与えかねません。

ビジネスの成果が生み出されるのは

感情(想い・気持ち)→思考→行動→成果

という順番です。

例えば最初の気持ちのところで「ああ、仕事なんて嫌だ嫌だ」と思っていれば、次の思考は「どうやって早く帰ろう?」と考えることになり、その思考にそって行動し(例えば、上司がいない隙に帰宅する)、その行動に見合った成果が生み出されることになります。

最初の気持ちのところで「もっといい仕事をしてお客様を喜ばせたい!」と思っていれば、「どうしたらもっと喜んでもらえるかな?」と考えることになり、「そうだ、次はこういう資料をお持ちしてみよう」と行動し、その行動に見合った成果が生み出されることになります。成果が生み出される起点は、気持ちなのです。

この「気持ち」について、丁寧に話し合うということ。対話の文化を根付かせるということ。これが、これからの経営人事にとっては、とても重要なことであると確信しています。

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