第四回「生産性と、積極的に職場で公私混同する【公私調和】という考え方」
2017/05/10
結局、多くの会社に行って感じることは「やりがいを持って働きたい」「WLBよく働きたい」「チームワークよく働きたい」と、ほとんどの人が思っているということです。
そして、それがしっかりと実現できている会社はまだまだ少ないのが現状かもしれません。
とくに「WLBよく働きたい」と多くの人が思っています。
恋愛相談の会議がある会社
びりかん社には有休休暇という概念がありません。社員は、一人一人が自律的に、休みたいだけ休み、働きたいだけ働くからです。ですから、「もっと会社の方でワークライフバランスに配慮して欲しい」といった声は、社員からは全く上がってこないのです。
私が独立後にもかかわらず、びりかん社の社長のもとで働こうと思ったのは、その器の大きさ(もしくは大きくしようとする姿勢)に惹かれたからかもしれません。びりかん社の会議では「タブーなし」を試してきました。今、本当に話したい話をしよう、ということを原則にしてみたのです。
そうしたときに、印象深かったことの一つは、ある社員が自分の恋愛相談を会議の議題に持ちだしたことでした。そして、全員とは言いませんが、ほとんどの社員が非常に親身になってその相談に乗っていました。
一人の人間は一つですから、恋をしているのも、介護をしているのも、お客様のために資料を作っているのも、一人の人間です。そして、当然ながら、失恋をして傷ついたりもすれば、その時はどうしたって仕事の生産性も下がったりするものです。
そういったことを一人一人の社員が考えてか、考えずか分かりませんが、私たちの会社では、社員の恋愛相談にも真剣に乗るような会議をしてきました。その結果、なのかもしれません。社員から「もっと会社の方でワークライフバランスに配慮して欲しい」という声は全く出てこない会社になりました。
WL区分の常識に挑戦
公私をしっかりと切り分けなさい、というのがビジネスの、いや社会人の常識となってきていたようい思いますが、その常識に挑戦してみたのです。
そうすることで、仕事の生産性が下がったでしょうか?いやむしろ、その生産性は上がっているようです、少なくとも自社の実験においては。昼間に、プライベートの悩み事を相談し、それがスッキリすれば、夜中になったとしても必要な仕事には全力を尽くすような社員ばかりになりました(これが労基法的に、誉められた働き方でないであろうことはある程度承知しているつもりです)。
ここまで極端でなくとも、例えば社員が引っ越したときに、どうしても色々と事務手続きをしたい、しかもそれは休日には難しい、みたいなこともあります。お役所は、休日はお休みで、平日でないと対応できないようなこともあるかと思います。
そういったときに、ちょっと午前中だけプライベートのことをやる。場合によっては職場に書類を持ってきてプライベートのことをやる。それでスッキリした方が、むしろそのあと仕事に集中できる、なんてこともあるかと思いますし、実際に、自社やクライアント企業ではそういったケースを多数目撃してきました。
2016年末に政府も原則副業OKということを打ち出してきました。これは「就業時間で社員を拘束する」ということを打ち崩す呼び水となりうるもののような気がしています。昼寝を推奨するような会社は以前からいくつか存在しています。
公私混同をポジティブに捉える
逆に「9-18時は業務に集中すること」という前提をしっかり守れているビジネスパーソンは、実際どれほどいるのでしょうか?仕事中にネットサーフィンをしたり、スマホを見たり、そうしている人の方が多いのが実態ではないでしょうか。では、業務時間中にSNSをやっている社員の方が生産性が低いのかというと、むしろそういう交友関係を持ち、情報収集力を持つ社員の方が活躍している、といったケースも見受けられるはずです。
あるクライアント企業では、社員の自由をかなり認めていて、ある社員などは「一日中、大きな本屋にいて、1階から8階まで全部回ってきた」といった日がありました。その企業は通販会社ですが、その社員の情報力、アンテナは社内で一目置かれていて、実際に業務に大きな貢献をもたらしてもいます。
公私混同、という言葉はネガティブな言葉として扱われてきました。しかし、ロンドンビジネススクール教授のゲイリーハメルの研究にもあるように(参考「経営の未来」「経営は何をすべきか」)、ハイパフォーマーほど、公私の境目は曖昧であったりもするのです。
話は変わりますが、私は自営業の時代がありましたので、その際に強く感じたことがあります。「会社員時代の“有給休暇”って制度、すごいな!」「今は、仕事しないで遊んだら、仕事しない=収入減、遊ぶ=支出増でダブルパンチだ!」と思ったことをよく覚えています。自営業では、自分自身のWLBも、生産性も、給与も、全て自分で責任をもたなければなりません。利益の薄い仕事しかできないのも自分の責任。利益率を高めるために勉強する時間を持つのも自分の責任。それが当たり前でした。
もちろん「全ての働きかたにおいてそれを当たり前にするべきである」というのは暴論であると思いますが、一考に値する側面であるとも考えています。
知識労働者の生産性を高める
WLBが良い、と感じるのは結局のところ、利益率、生産性と大きく関連しています。短時間で高利益を生みだせればWLBは良くなりますし、長時間働いても低利益(定収入)では、実感としてのWLBは良いものとはならないでしょう。
マネジメントは、真剣にWLB、生産性、やりがいの向上に取り組む必要があるのだろうと思います。そしてそれは、ドラッカーの言う「知識労働者時代」に即したものであろうと思います。
そして比喩的に言えば、知識労働者の生産性、WLB、やりがいを高めるには“遊び”が必要なのではないでしょうか。ギアがスムースに回るには“遊び”が重要になります。
日本においては、京セラ創業者でいらっしゃる稲盛和夫氏の「アメーバ経営」は大変有名です。これは、ビジネスパーソン一人一人が「自分達の生産性」ということを意識出来るようにする仕組み、と言うこともできるかもしれません。
公私を無理に切り分けず、大きく見ての生産性を高める。これは、これからのマネジメントにとってとても重要な要素であると、私は考えています。