社長、あなたの右腕作ります!〜ベンチャー・中小企業経営テクニック集〜

社長のかわりに幹部や社員を鍛えたりヤル気にさせるブログです。100社以上支援実績のあるベンチャー・中小企業専門コンサルタントが、事業推進や組織体制構築、新規事業企画、プロジェクトマネジメント、新規採用のコツ、社員のモチベーションアップ、マネージャ育成・チームビルディングなどあらゆる経営課題の実践的な企業経営ノウハウを解説。

第三回「最高の人事評価制度・人事考課はあるのか?」

      2017/05/10

年功序列,能力主義,成果主義,コンピテンシー評価,360度評価…などなど,様々な“評価制度”が考えられ,試されてきました。しかし,いまだに「これ!」という評価制度は見出されていないように思います。

「自分たちの給与は自分たちで決める」

仕事柄,人事制度の構築や再構築に携わる機会は多いのですが,今のところ前もって「評価制度は必要かもしれませんが,評価制度を作ったからといって経営がうまくいくわけではありません」とお伝えしています。ある程度評価制度が整っている会社であれば,その内容を変更していくよりも「評価制度」というものに対する理解を深めることのほうが,メリットが多いようです。

私たちびりかん社では「自分たちの給与は自分たちで決める」というルールで運営しており,評価 者というものが存在しないのですが,その代わり「X案件の売上(給与原資)100万円を,AさんとBさんでどう割るかは,当人同士で決める」としています。Aさん40万円,Bさん60万円とするのか,Aさん20万円,Bさん80万円とするのかは当人同士で話し合って決めます。

正直なところ,この話し合いはとても大変でした。職場の雰囲気は最悪になったと言っても過言ではありません。そしてこの話し合いを「みんなが納得するまでやろう」と続けた結果,全社員が持った学びは「どの比率が“正しい”かは,絶対に分からない」,そして「その正しさを追求するのに時間をかけるのは不毛だ」ということでした。

「絶対に正解にたどり着かない議論を延々と続ける暇があるなら,お客様のために時間を使って,売上(給与原資)のパイの増加に動いたほうが,よほど生産的だし,社内の雰囲気も良くなる」。今は,全社員がそう思っています。

評価制度についてディベートする

この経験をして以降,クライアント企業では「評価制度についてのディベート」をしていただく機会が増えました。そして自分たちで数時間でも議論をすると「ホントに“正しい”評価制度なんて作れないですね」「“ある程度納得”くらいでしか無理ですね」という感想が生まれてきます。その経験をしていただいた組織は,評価制度への不満を聞くことがぐっと減ります。「完璧な評価制度,なんて幻想を期待してたら,自分たちのほうが苦しくなっちゃうよ」と,ほとんどの方が思うからでしょう。

プロ野球のような世界では「評価制度」が非常に厳しく運用されています。打率,打点,出塁率…など様々なデータが蓄積され,年俸交渉の材料とされています。ある意味,データを基にした,とても公平な評価制度が運用されている世界です。しかし,この世界を理想とするのは,実際の企業活動においては無理があります。

企業活動は複雑性が高い

第1に,“野球”といったスポーツは,一般的な企業活動よりもずっとシンプルだということです。 勝つ,ということが目的で,勝つということの定義も明確です。しかし,企業活動において“勝つ”とは何でしょうか? 売上でしょうか? 利益でしょうか? 商品開発でしょうか? 顧客満足度でしょうか? 今期の利益が高ければよいのか,10年後の利益が大事なのか,それとも社会的価値が重要なのか。

またプロ野球チームであれば,そこにいる選手はほぼみんな「勝ちたい。うまくなりたい」と思っているでしょうが,企業活動では,全社員がそうだという前提で始められるケースのほうが少ないでしょう。一般的に,プロスポーツチームより,企業活動のほうが,複雑性が高いのです。

第2に,プロ野球などでは“スコアラー”という存在が成立しますが,実際の企業活動ではそれはほぼ不可能です。全社員の,全労働時間を「チェックするためだけに存在する」人材などを置くということはまずできません(少なくとも恐ろしく人件費がかさんでしまいます)。プロ野球で,スコアラーが存在しえるのは,試合をしている時間が限られ,出場選手数が限られているからです。そして,試合中のパフォーマンスを評価することが,練習時間等を評価するよりも重要度が非常に高いからです。

この世界に完璧な評価はない

ですから,企業活動においては「完璧な評価制度などないのだ」ということを前提にしたほうが,実際的にはうまく進むことが多いものと思います。組織としての成熟度,インテリジェンスが高まって「強い組織になる」ということは,こういった面の学習が深まっていく,ということでもあるかと思います。もちろん,自社の事業内容についての知識・スキルを高めていくことは重要です。「どうしたら社会にもっと役立てるだろうか?」と考え,そのための学習や実践に時間を割いていくことはとても大切なことです。しかし,一方で,人事や会計面の知識が不足していると,組織へのロイヤリティが下がり,生産性が低下してまうリスクがあるわけです。

例えば,なんとなく「完璧な評価制度があるはずだ」と思っていると,自社の評価制度に対する不平・不満が募りやすくなりますが,「完璧な評価制度を求めて世界中でいろんなことが試されているが,まだそんなものはどこにも出てきていないのだ」という知識・ 体験があれば,自社の制度を不満に思うことは減ります。

中間管理職が「うちの評価制度はなってないよなぁ」などと不満を漏らしていたら,その悪影響は想像するのも恐ろしくなりますが,彼らが「完璧な評価制度なんてないわけだし,うちの評価制度もそれほど悪くないよ」と考えていて,部下が「うちの評価制度おかしくないですか?」と言ってきたときに「いやね,実際,評価制度っていうのはさ…」としっかりと説明できるようになっていれば,その好影響も想像されるところです。

多くの人が「正当な評価を得たい」と思っているわけですが,“正当な評価”ということは大変難しい問題です。その精密さを高めようと思えば,時間もコストもかかってきます。しかし,経営全体としては,時間とコストを評価の納得度を高めることだけに投資するのではなく,社員のスキル向上や,顧客満足度の向上などに投資することも,バランスとして考えなければなりません。こういった“経営リテラシー”を,全社員が高めていくことによって組織が強くなっていきます。

事業経営においては,外部環境である市場に対する戦略の構築,業務プロセスの改善・実行といった面に限らず,内部環境である評価制度の整備や,社員の経営リテラシーの向上などにも,投資をしていくことがとても重要であるということです。

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