次世代型組織の一番の根幹は「対話」にあります。どんなことについても話し合います。
極端に言えば、どんな事柄であってもみんなが納得するまで。組織メンバーの一人一人が参加している対話の場を持つことをとても大切にしています。
対話は、一人一人が参加します。参加しない、ことも選べますが、もしそれを選んだら、そこで“決定”したことには無条件に従ってもらいます。それが嫌 なら“参加する”ことです。
“対話に参加する“とはどういうことでしょうか。
それはまず第一に「一人一人が本音で話す」ということです。 本音と建て前という言葉がありますが、建て前で話し合っているうちは、それは「対話」とは呼べるものではないと言ってよいかと思います。
南アフリカの 社会変革などに携わったアダム・カヘン(「手ごわい問題は、対話で解決する」 など)は、対話の段階を 4 つに分けて説明しています。
Talking Nice は儀礼的会話などと訳されていて、まさに建て前の会話です。
「ホントは、その仕事やる意味あるのかなと思っているけど。」「ホントは、こんな細かい資料意味あるの?と思っているけど。」そういう「ホントは」は隠されたまま、表現されずに、「この場では、こういう発言が求められているだろう」 という斟酌によって会話が流れている状態です。
当然ですが、この Talking Nice の状態では、例えばそこで約束されたことなど に対して、本気で取り組むなどといったことは不可能になります。
例えば営業部長が「今期の売上目標は 1 億円だ!」と言ったとして、部下たちは「1 億円なんて絶対無理だよ。」と本音では思っていて、しかし Talking Nice をするの で「分かりました! 1 億円ですね!」と建て前で発言したりします。
しかし、この状態では「どうやって1億円の売上を達成しようか?」という前向きな思考や行動は生まれてこないのです。
システムシンキングについても、社内で繰り返し学習し続けています。
となると、Talking Nice のレベルのコミュニケーションに留まっているわけにはいきません。「1 億円なんて絶対無理だよ。」という本音が、ちゃんと表現される必要があります。
これが表現されるようになるのが Talking Tough の段階 です。
「1 億円いくぞ!」「1 億なんて絶対無理ですよ!」「ふざけるな! 最初から無理だと決めつけてビジネスが上手くいくか!」こんな会話になってくると、 それは Talking Tough ということになってきます。
この Talking Tough の状態は、非常にストレスがかかるので、みんな Talking Nice に戻りたがります。しかし、Talking Nice に戻らずに、Reflective Dialogue に移行できるかどうか、ここが組織内で「対話」を成立させられるかどうかの鍵になります。
なぜ 1 億円もの高い売上目標を掲げる必要があるのか? なぜ、1 億円という高い売上目標を掲げることに抵抗があるのか?そういったところ「本音の本音」の ところを丁寧に掘り下げて、共有していくのです。
そこで大事になってくるのは、論理以上に、一人一人の「気持ち」ということになります。
例えば、営業部長からすると「他の部も 1 億円というノルマになっていて、自 分達だけ断るなんてことはできなかった」「目標自体を否定したら、自分達の評 価は大きく下がってしまう。
部下たちも賞与は激減してしまうだろう」「自分の評価が下がるのも辛い」「そんな状態に部下たちをさせたくはない。厳しい目標 だがなんとか達成して、給料を維持させてあげたい」といった気持ちが隠れているかもしれません。
一方で部員たちからすると「去年の 8000 万円も達成できなかったのに、市況は悪くなってる中でどうやって実現しろって言うんだ、非現実的過ぎる。」「ホントに 1 億円を売上げようと思ったら毎日徹夜して、週末も休みがないみたいな 生活にならざるを得ない」「子供が生まれたばかりで、そんな生活は絶対にしたくない」といった気持ちがあるかもしれません。
多くの企業において、こういった「気持ち」といったものは、職場では話さないことになってきていたかと思います。「社会人として、公私を分けて」という考え方は、社会全般に浸透しているかもしれません。
しかし、こういった「気持ち」をちゃんと受発信することが Reflective Dialogueであり、Reflective Dialogueのレベルでの対話ができるからこそ、一人一人が 本当に責任感を持って仕事にあたることができるようになるのです。
Google 社が「生産性を高める要因を調査する」として始めた社内プロジェクト “プロジェクト・アリストテレス”の調査結果が報じられましたが、この調査結果の結論の一つは「心理的安全性が高いチームは、生産性が高かった」ということでした。
例えば「実は、親が介護が必要な状態で、プロジェクト終盤の追い込みの時期に、みんなの足をひっぱってしまうのではないかと不安を感じている」といっ たことを、チームメンバーに“安心して”共有出来る、そういったチームほど 生産性が高かったというのです。
人間が働いているわけであって、人間にとって「気持ち」や「こころ」といったものは本当に大切なものだと思います。
社内で「対話」の文化を育むという ことは、人の気持ちを大事にするということであり、それはつまり、人間を大事にする、ということなのだろうと思います。
気持ちを含めて対話することを「面倒くさい事」として、「感情などは押し殺して仕事をすべき」などと考えていると、人間の生産性こそが競争力の源泉となる現代のビジネス社会においては、企業経営に対して致命傷を与えかねません。
ビジネスの成果が生み出されるのは
感情(想い・気持ち)→思考→行動→成果という順番です。
例えば最初の気持ちのところで「ああ、仕事なんて嫌だ嫌だ」と思っていれば、 次の思考は「どうやって早く帰ろう?」と考えることになり、その思考にそっ て行動し(例えば、上司がいない隙に帰宅する)、その行動に見合った成果が生 み出されることになります。
最初の気持ちのところで「もっといい仕事をしてお客様を喜ばせたい!」と思 っていれば、「どうしたらもっと喜んでもらえるかな?」と考えることになり、 「そうだ、次はこういう資料をお持ちしてみよう」と行動し、その行動に見合った成果が生み出されることになります。
成果が生み出される起点は、気持ちなのです。
この「気持ち」について、丁寧に話し合うということ。対話の文化を根付かせるということ。これが次世代型組織の根幹にあります。
本音で話す際に「相手の本音を尊重する」という聞く側の姿勢も大事になります。これもとても重要です。
相手の意見が自分の意見が違う際に「私もそう思う」と嘘をつく必要はありません。しかし「あなたはそう思うのですね」ということは、しっかりと尊重し、受け止めます。
そのうえで「あなたは間違っている」と返す前に、一人一人が内省します。「私 は A がよいと思っている。しかし、B がよいという人がいる。なぜ私は A とい う案にこだわっているのだろうか?」と。
また同時に「私は A がよいと思っているが、この人は B がよいと思っている。この人が B がよいと思っている理由は何なんだろうか?」と推察しようともします。
この“聞く態度”は、対話の質を高めるうえで“自己開示”以上に大切なとこ ろがあります。そして、このような態度を大切にした対話の場は「話し合って いる」というよりも、「聞きあっている」という方が的確かもしれません。
本音で話す際に「相手の本音を尊重する」という聞く側の姿勢も大事になります。これもとても重要です。
相手の意見が自分の意見が違う際に「私もそう思う」と嘘をつく必要はありません。しかし「あなたはそう思うのですね」ということは、しっかりと尊重し、受け止めます。
そのうえで「あなたは間違っている」と返す前に、一人一人が内省します。「私は A がよいと思っている。しかし、Bがよいという人がいる。なぜ私は A という案にこだわっているのだろうか?」と。
また同時に「私は A がよいと思っているが、この人は B がよいと思っている。 この人が B がよいと思っている理由は何なんだろうか?」と推察しようともします。
この“聞く態度”は、対話の質を高めるうえで“自己開示”以上に大切なところがあります。そして、このような態度を大切にした対話の場は「話し合っている」というよりも、「聞きあっている」という方が的確かもしれません。
次世代型組織ではどんなことでも対話の対象となります。タブーはありません。
「それは話ってもしょうがない」「それはアンタッチャブルだ」という制約を設けていません。「お前失恋したくらいで、仕事さぼるなよ!」「いや、失恋したら仕事なんて手 につかないですよ。あなたのほうこそ人間じゃないんじゃないですか?」ということも対話します。
どんなことでも、対話するのです。
それは、立場が創業者であれ社員であれ、男性であれ女性であれ、高収入であれ低収入であれ、一人一人の人間は尊重されるべき尊厳ある存在である、と考えていることが根底にあります。
社長だけが幸せで社員が犠牲になっているというのも会社として長続きしないでしょう。一方で、社長が犠牲になって社員だけが幸せというのもおかしな話です。立場がどうあれ、一人の人間として、その人がその人なりの幸福を望ん だり、実現しようとすることは尊重されるべきものと考えています。
しかし、立場や価値観などはぶつかるものです。
例えば、「一人前になるまでは、 一つも口ごたえせずとにかく勉強と思って頑張るべき」と思っている上司と、「修行期間であれ、自分の頭でしっかりと考えて納得いかないところは納得い かないとちゃんと自分の意見をぶつけるべき」と思っている部下とでは、ぶつかるものです。
そして、この“ぶつかり”をとても大切なものと考えているのが、次世代型組織と言えます。
それは確かに面倒くさいものですが、ちゃんとぶつかること によって、それぞれの視野が広がったり、より組織として大きな視野で成熟し た判断を下せるようになる、そのチャンスとして考えているのです。
もちろん包含関係の場合もあります。視野の狭い人が、視野の広い人に完全に 包まれている、というケースもあります。その場合も、視野の広い方の人は「な んで、こんな視野の狭いやつにわざわざ時間を割いて教えてあげなきゃいけな いんだよ」ということになるわけでもなく、原則として「自分にも視野が狭い ときがあったし、そのときに視野を広げるきっかけをくれた人もいるし、恩送りだなぁ」といった態度でいることになります。
もし「あいつはわかってな い!!」と腹が立ったりするようだと、それはまだ包含関係にはなっていない という証拠であるとも考えています。と同時に、矛盾にするようでもありますが「やりたいことをやる。やりたくな いことはやらない」が原則なので、教えたい人は教えるし、教えたいと思わな い人は教えません。これもまた個性として尊重しています。(ただ、社内会議に おいて“教えている”という価値に対して、給料を発生させる必要がある、といった話にはなります)
話を戻しますが、どんなことでも対話するし、意見がぶつかるところについて こそ、時間をかけて丁寧対話をします。もちろん時間がかかる面はあるのです が、でも「ちゃんと丁寧に対話をして、みんなが納得した状態」になることの メリットは無限とも言えるほどのものがあります。だからこそ次世代型組織では「対話する」ということが、根幹に据えられているのです。